スキンケアコスメの商品紹介や、雑誌やWebの美容ページを読むと必ずと言っていいほど出てくる「バリア機能」という言葉。「バリア機能を整える」「バリア機能が低下すると肌があれる」などよく目にしますよね。「バリア」という言葉から「外敵から肌を守ること」というイメージをなんとなく持たれているのではと思いますが、正しく「バリア機能」を理解している方はそう多くはないのでは?
そこで今回の記事では、「バリア機能」について詳しくご紹介していきます。知ることで毎日のスキンケアの役割やどういったケアをおこなうとバリア機能が正常に働くようになるのかが理解できるようになると思いますよ。
身体を外部刺激から守り、肌の水分を保持する「バリア機能」
皮膚にはさまざまな働きがありますが、「バリア機能」とはその名の通り、紫外線や摩擦、乾燥、雑菌、ウイルスなどあらゆる外部刺激や異物が体内に入らないようにするための皮膚の働きのことです。同時に体内の水分が蒸発するのを防ぐ役割も担っています。
肌あれの原因の多くは、このバリア機能が低下することで引き起こされるので、健やかな美しい肌を保つためにはバリア機能を整えることが欠かせません。
バリア機能を担う「角層」のメカニズムとは
皮膚は外界に接している上から順に、表皮、真皮、皮下組織の3つの層で構成されていて、表皮の中で最も外側にある「角層」がバリア機能を担っている部分になります。そしてさらに、その角層の中には役割の違う下記の3層が存在します。
肌の表面で皮膚細胞と共生している微生物が、外的刺激や病原体などの増殖から皮膚を守る
物理的に壁となって微生物の侵入や刺激を防ぐ。同時に水分の蒸発も防ぐ
細胞のバリアが形成する表層で、組織を保護したり、体内への物質の出入りをコントロールする
3層の中でスキンケアが影響できるのは「微生物学的バリア層」「物理学的バリア層」の2層。今回の記事は化粧品領域であるこの2層について解説しています。
「バリア機能」が正常に働くためには?
では、より詳しくバリア機能について確認していきましょう。
角層では角質細胞がレンガのように積み重なって外部からの刺激やアレルギー物質、ウイルスの侵入を防ぐ役割(バリア機能)を果たしています。バリア機能が整い正常に働くためには、角層がうるおいに満ちた状態であることが不可欠です。そのために必要となるのが、元々肌に備わっている「皮脂膜」「角質細胞間脂質(セラミドなど)」「天然保湿因子(アミノ酸、塩類など)」の3大保湿因子で、それぞれが持つ機能や働きによって、肌トラブルを防ぎ、水分の蒸発による乾燥を防いでいます。
汗と皮脂が混ざり合ったもの。水分の蒸発や乾燥を防ぐ
セラミドやコレステロールなどを含み、水分と油分に結びつきやすいので角質内の細胞と細胞の間を埋めて肌の中の水分を保つ
水分を取り込んで保持する
この3大保湿因子がバランスよく整うことで、肌がうるおいに満ちた状態となりバリア機能も正常に機能します。
「バリア機能」が低下するとどういう肌状態になる?
バリア機能が低下すると、摩擦や紫外線など外部から刺激を受けやすい状態になります。また角層が水分を保ちづらくなり乾燥が気になるようになります。乾燥することで肌がカサカサとして痒みが発症したり、皮がむけてしまったり、赤味が生じたりもします。
いわゆる「敏感肌」とは、肌が環境の変化に敏感で軽い刺激でも影響を受けやすいバリア機能が低下している状態のことをいいます。
バリア機能を整えるスキンケアとは?
肌表面のバリア機能は入浴やクレンジング、洗顔によっても一時的に低下してしまうものです。バリア機能を整えるためには何よりも日常の保湿ケアが大切になります。そして摩擦などの刺激を与えないように気をつけましょう。
クレンジングや洗顔で肌の洗い過ぎに注意しましょう
肌を清潔に保つためにクレンジングや洗顔は欠かせませんが、ゴシゴシと擦るように洗ったり、何度も洗浄したりするとかえってバリア機能を損なうことになります。洗顔の際はたっぷりの泡で優しく洗ってください。また40℃前後の熱いお湯で洗い流すと必要な皮脂までを洗い流したり、肌に刺激になったりするので、ぬるま湯ですすぐと良いでしょう。
余談ですが、摩擦や刺激がバリア機能を低下させてしまう分かりやすい例をここで1つご紹介すると、花粉症や風邪で何度も鼻を噛むと鼻周りの皮膚の皮むけや乾燥、そして痛みや赤みも生じますよね。その状態が皮膚のバリア機能が低下しているということになります。
洗顔や入浴後はすぐに化粧水などで保湿・保水ケアをおこないましょう
洗顔後はすぐに化粧水で保湿をしましょう。湯気とともに肌の水分はどんどん蒸発するので、角層の水分量や皮脂膜の機能を維持するためにもすぐに保湿することを意識してください。化粧水を手に取ってつけるのが面倒、習慣づけられないという場合は、化粧水タイプのフェイスマスクがとてもおすすめ。顔に貼るだけで十分な水分を肌に届けることができます。また冬に体が乾燥した時はボディクリームの前に化粧水で保湿するとよいでしょう。バリア機能を高めるためには保水ケアが一番のポイントです。
乳液やクリームで保護ケアをおこないましょう
化粧水で保湿した後は、せっかくの水分が蒸発しないよう乳液やクリームを塗布して油分で蓋をしましょう。水分と油分のバランスがとれている時にバリア機能は正しく働きます。
日焼け止めを塗って紫外線ケアを忘れずにおこないましょう
紫外線を浴びるとバリア機能は低下します。日焼けした後に乾燥を感じたり、ひどい時には皮が剥けてしまったことがあると思いますが、それはバリア機能が乱れ、ターンオーバー(新陳代謝)が異常に早くなったために起こる現象です。季節を問わずに日焼け止めを塗りましょう。日焼けをしてしまった後は保湿ケアをしっかりすることをおすすめします。
正しいスキンケアが肌のバリア機能を高め、肌状態を健やかに保つ
バリア機能を担う角層は約0.02mmで食品用のラップほどの厚さです。そんなとても薄い角層が私たちの肌状態を左右しているなんて不思議ですよね。擦り過ぎず、保湿に重点をおいたスキンケアと紫外線ケアをきちんとおこなうことでバリア機能を整え、肌状態を健やかに保つことが十分期待できます。毎日のケアを丁寧におこなってくださいね。
よく混同されがちなのが生物学的バリア層による反応です。ここは免疫反応を司っているのですが、アレルギーやウイルスなどに反応して周りの細胞に指示を出して戦います。これが炎症です。さらに、この免疫反応が過剰に働いたり、慢性的に反応したままになってしまうことがあります。これが敏感肌に関わっていますが、一般的な化粧品では届かないということになっています。
一般的に「バリア機能が低下する」というとすごく怖いことのように言われていますが、お風呂に入ったり、洗顔やクレンジングを行うだけでバリア機能の低下状態になります。それよりもメイクや古い角質や皮脂を放置して酸化してしまうことで炎症を起こす方が肌への負担が大きいと考えられます。スキンケアにおけるバリア機能は、水分と油分をリフレッシュして、バランスを保つことで健康的な肌状態になるという考え方になります。
バリア機能のまとめ
肌には外部からの刺激や有害物質の侵入を防ぐための複数の「バリア層」があり、これらは主に以下の3つに分類されます。それぞれが異なる役割を持ちながら連携し、肌の健康を保っています。
1. 微生物学的バリア層(Microbial Barrier)
概要: 肌の表面にはさまざまな常在菌(皮膚常在微生物)が存在し、外来の有害な細菌や病原体の侵入を防ぐ役割を果たします。
- 主な常在菌の例:
- 表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis): 肌の健康を維持する善玉菌。
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus): 過剰に増えると肌トラブルを引き起こす可能性がある菌。
- アクネ菌(Cutibacterium acnes): 皮脂を分解し、肌を酸性に保つことで病原菌の繁殖を抑制。
- 役割:
- 競合阻害: 有害な微生物が肌に定着するのを防ぐ。
- 抗菌物質の産生: 善玉菌がリポペプチドや脂肪酸などの抗菌物質を生成して病原菌の増殖を抑える。
- 肌のpH維持: 常在菌が皮脂や汗を分解して弱酸性の環境(pH4.5~6.0)を作り、病原菌の繁殖を防止。
2. 物理的バリア層(Physical Barrier)
概要: 肌の最外層にある角質層が、外部からの刺激を物理的に防ぎ、水分を保持する役割を担います。
- 構成要素:
- 角質細胞: タンパク質の一種であるケラチンが豊富に含まれ、細胞同士がレンガ状に積み重なった構造。
- 細胞間脂質: セラミド、コレステロール、脂肪酸などがモルタルのように角質細胞を接着。
- 天然保湿因子(NMF): アミノ酸や乳酸などの水溶性物質が角質層内で水分を保持。
- 役割:
- 外的刺激の遮断: 紫外線、化学物質、微粒子の侵入を防ぐ。
- 水分保持: 角質層が水分の蒸発を防ぎ、肌の潤いを維持。
- バリア機能の補助: 肌表面の皮脂膜と連携して保護。
3. 生物学的バリア層(Biological Barrier)
概要: 肌の免疫系が関与するバリア機能で、異物の侵入に対する防御反応を担います。
- 構成要素:
- ランゲルハンス細胞: 表皮に存在する免疫細胞で、異物を感知して免疫反応を活性化。
- ケラチノサイト(角化細胞): サイトカイン(免疫調節物質)を分泌して、炎症反応や免疫系の活性化を助ける。
- サイトカイン: 異物や損傷に応じて放出されるタンパク質で、免疫細胞間の情報伝達を担う。
- 役割:
- 免疫防御: 外部から侵入した病原体を認識して排除。
- 炎症反応の調整: 傷ついた肌を修復するために必要なプロセスを調整。
- 常在菌との共存: 必要な常在菌を保ちながら、病原菌の侵入を抑える。
3つのバリア層の相互作用
これらのバリア層は互いに補完し合い、健康な肌を維持します。
- 微生物学的バリアと物理的バリア: 常在菌が皮脂膜を調節し、物理的バリアの状態をサポート。
- 物理的バリアと生物学的バリア: 角質層が傷つくと、生物学的バリアが修復を促進。
- 微生物学的バリアと生物学的バリア: 善玉菌が免疫反応を抑制し、炎症を防ぐ役割を果たす。
まとめ
- 微生物学的バリア: 常在菌による保護。
- 物理的バリア: 角質層や皮脂膜による物理的な遮断。
- 生物学的バリア: 免疫系による防御。
これらのバリアが健康な状態に保たれることが、肌トラブルの予防と健やかな肌の維持に欠かせません。