植物のパワー感じる、精油(エッセンシャルオイル)の基礎知識
ミントの爽やかな香りは歯磨き粉に、シトラスのジューシーな香りはスポーツドリンクに、ジャスミンのフルーティな香りはルームフレグランスに……。植物は、それぞれに「香り」を持っており、私たちの生活の中に深く根づいています。
「人間の嗅覚と、アロマの香りがもたらすもの」に引き続き、香りについて、今回は植物の持つ香り成分、精油をご紹介します。
植物の香りの正体、精油
植物の香りの正体は、精油(エッセンシャルオイル)という物質。人間の手によって植物から抽出してビンに集められた精油は、雑貨店などで売られ、アロマテラピーなどの香りを使った療法にも使われます。
精油のあるところ
精油は、植物の葉、茎、根、幹、樹皮などにある油細胞の中に、粒のように含まれています。油細胞のある場所は、セリ科は茎、ショウガ科は根、柑橘類は果皮など、植物によって異なりますが、必要に応じて気孔から放出されます。
放出されたその粒は風などによってはじけ、精油が大気中に発散されることによって、強く香ります。デザートの上に乗っているミントも、鼻を近づけただけでは強く香らないのが、口に入れて噛むとスーッと爽やかに香りが出ますよね。これも、ミントに含まれていた油細胞が歯の摩擦で壊れたことによるのです。
精油と化学
精油は、いくつもの芳香成分の複合体で、成分の種類やその割合によって植物ごとの個性となります。その成分は、解明されていないものも未だ存在するものの、それぞれ化学構造式で表すことができるんです。
理論上、その化学式を再現すれば、同じものができあがるはずです。しかし、その成分は膨大な数と複雑さで、気の遠くなるような労力と費用がかかるのだそう。このことからも、植物の偉大なパワーを感じることができるようですね。
植物における精油の役割
そもそも植物は、なぜ精油を作るのでしょうか。
精油には、植物が生き残るために自分の身を守り、子孫を残すための武器としての役割があります。動物のように自由に動くことのできない植物にとって、永続的に自身の生活圏を維持するために必要なものであるのです。
もう少し詳しく見てみましょう。
自分の身を守るための精油
植物は、他の生物の生育を阻害するために、殺菌効果のある精油のミスト・フィトンチッド(フィトン=植物、チッド=殺す)を発しています。他の植物に養分を取られないように、または、有害な菌・ウイルスや昆虫、草食動物に食べられないようにするためです。
「森林浴」を気持ちよく感じるのは、緑の美しさと風による木立や葉の音とともに、抗菌作用のある、このフィトンチッドを浴びることによって身体が浄化されることによるものだと言われています。
子孫を残すための精油
精油には、受粉を助けてくれる昆虫を呼び寄せるはたらきもあります。花が受粉するためには、ミツバチや蝶などに花粉を運んでもらう必要がありますが、花の色と形の視覚的効果とともに、この精油成分を揮散させる嗅覚的効果で、これらの生物を呼び寄せるのです。
他にも、精油には、自身にできた傷の治癒、体調の調節、乾燥を予防するなどのはたらきもあるといわれています。
精油の作りかた
精油を人間のために応用するには、植物からそれを取り出す必要がありますが、蒸留や圧搾など、その方法は植物の種類や形態によって異なります。1本の植物でも、その抽出方法、さらには部位によって香りや作用、抽出できる量に違いがあります。
ワインやお米は、収穫した年や原産地によって味に違いがありますが、精油も同様。例えば、標高800〜1600mの畑で栽培されるラベンダーよりも、1600〜1800mの山岳地帯に野生するラベンダーのほうが香りが強く、甘さが増すのだそう。
精油の香りや作用は、気温、土壌、日照条件など、生育環境や栽培方法の影響を受け、毎年微妙に変化します。どこで、どの時期、どのように抽出されたかによって、違う精油として販売されることもあるんですよ。
感じてみて、植物のパワー
精油を使って心身の不調を癒やすという療法、アロマテラピーが行われるようになったのは、20世紀初頭からですが、古代の人々はすでに植物のもつ香りの力を知っており、儀式や治療に使っていました。紀元前4000年頃のメソポタミアの時代には、すでに神に祈りを捧げる時に香を焚くという習慣が存在したんですって。
1滴の精油に、私たちにもたらす影響と、植物のパワーを感じてみませんか。